報道関係者各位

報道資料
平成18年8月31日
株式会社 農業技術通信社

 

意欲と能力のある農業の「担い手」は、農政批判よりマーケット重視

生産者の約4割は遺伝子組み換え技術に前向き、有機栽培農家でも約3割がその必要性を認める
〜農業に対する社会のイメージと生産者の意識のギャップも浮き彫りに〜
農業経営者約2,000名を対象にした調査結果より


農業専門誌『農業経営者』を発行する株式会社農業技術通信社(代表取締役・昆吉則)は、このほど、日本の農業をとりまく様々な環境変化の中で岐路に立たされている生産者が何を考え、今後どのように進みたいと考えているかを探るべく、日本農業の主軸的役割を果たしている販売金額500万円以上(うち半数を1,000万円以上が占める)*を中心とした全国の農業経営者約2,000名を対象に、農業経営の課題や新技術の導入などについてのアンケートとグループインタビューでの調査を行った。その結果、次のことが明らかになった。
*農水省の2005年農業経営体調査では、年間販売額1000万円以上の農家は国内農家全体の7.3%にとどまる。


WTO農業交渉や補助金政策の転換等で日本農業の先行きに対する不安が指摘されているが、むしろ農業の「担い手」層は、環境の変化をチャンスと受けとめ、マーケットを重視した農業経営を展開しようという意欲と能力にあふれており、遺伝子組み換えや乾田直播などの新技術にも条件次第では取り組みたいと考えている。その一方で、有機栽培や環境保全的役割の重視など、農業に期待されている一般的イメージについて困惑する生産者も多く、農業をとりまく社会的イメージと生産者との意識の乖離も浮き彫りになった。


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この調査からわかった主なポイントは以下の通りで、これまで見えていなかった、または誤解されていた農業現場の生産者の意識が明らかになった。

農業経営者層の実像
−「農政批判よりマーケット重視」の意欲と能力ある担い手が出現−
生産者の4割、遺伝子組み換え技術の必要性認め、消費者ニーズがあれば栽培したい
有機栽培農家でも、3割以上は遺伝子組み換え技術に関心
北陸研究センター(上越市)の遺伝子組み換えイネについても、生産者は4割近くが肯定
自治体の栽培規制は賛否両論だが、栽培実現のためのルールとしての期待も
生産者の6割は乾田直播の必要性認め、技術が安定すれば栽培したい
「自給率を上げるべき」「有機栽培をふやすべき」「経済の論理を求めるのは間違っている」という農業に対する一般常識に生産者は困惑

この調査の結果、約4割が「現在の農業経営環境の変化をチャンスとして自らの経営を発展させる」と回答。その実現手段としては、「顧客の立場に立って物を考える経営感覚」という回答が農政への要望や批判を上回ったほか、農水省が進めている担い手への補助金集中という方向についても支持する意見が半数を占めるなど、マーケット重視の「自立」した生産者像を印象付ける結果となった。これらの農業経営者層は新しい技術への関心も高く、例えば新技術の1つとして注目されている遺伝子組み換え技術については、約4割が日本の農業にとって「必要」、または実際に「栽培してみたい」と回答。一部で反対運動も起きている北陸研究センターの病害に強い遺伝子組み換えイネの研究についても生産者の立場として45%が「続けるべき」と回答した。一方で、「有機栽培を増やすべき」「農業に効率性を求めるのは間違い」等の農業に対する社会一般的な意見については7割以上が「違和感がある」と回答。理由としては「有機農業でなくても安全性や環境に配慮してきちんと管理することが生態系にも経営にも望ましい」「農業経営の継続を前提にした効率性や生産性への努力自体が環境や地域社会を守ることにつながる」など、農業をとりまく社会的イメージに困惑しながらも、自らの経営を追求していくなかで社会的役割も果たそうという姿勢が浮き彫りになった。これら各ポイントの詳細について、以下でデータをもとに述べる。


ポイント1
農業経営者層の実像
−「農政批判よりマーケット重視」の意欲と能力ある担い手が出現−
今後の農業経営について、全体では4割(40.2%)、年間販売額1000万円以上の生産者では5割近く(48.8%)が、「現在の農業経営環境の変化をチャンスとして自らの経営を発展させる」と回答。
そのために重要な取り組みとして最も多い回答(50.0%)は、「顧客の立場に立って物を考える経営感覚」。「農業に関わる行政、農協、関連業界などの改革や体質変化」(38.2%)以下を大きく引き離し、農政批判よりマーケット志向が顕著。
農水省が進めている担い手に補助金を集中する政策について、「基準をもっと厳しくすべき」(16.9%)と「妥当」(29.4%)を合わせると、半数近くが担い手への補助金の集中に賛成。「農村の弱者の切捨てになる」(41.3%)を上回る。


ポイント2
生産者の4割、遺伝子組み換え技術の必要性認め、消費者ニーズがあれば栽培したい
日本の農業にとって「必要」(15.3%)と「どちらかといえば必要」(28.5%)を合わせると、4割が必要性を認める。
生産者の40.2%(販売額1000万円以上の生産者では43.2%)、条件付も含め「栽培してみたい」。
栽培の条件は、「マーケットの支持が得られること」(54.4%)、「農薬や除草剤などの使用を減らせること」(45.5%)など、消費者ニーズを意識。
有機栽培農家でも、3割以上は遺伝子組み換え技術に関心
有機栽培農家は遺伝子組み換えに否定的と思われがちだが、実際には「必要」(12.2%)と「どちらかといえば必要」(19.5%)を合わせると、3割がその必要性を認めており、34.2%が、条件付も含め「栽培してみたい」と回答。
栽培の条件は、「技術が安定して栽培しやすくなったら」(50.0%)、「農薬や除草剤などの使用を減らすことができれば」(47.9%)など、双方を対峙するものではなく農業技術の一つとして認識する傾向が顕著。
北陸研究センター(上越市)の遺伝子組み換えイネについても、生産者は4割近くが肯定
遺伝子組み換えイネの「屋外栽培実験」について、45%が「続けるべき」
遺伝子組み換えイネが商品化されたら、条件付も含め39%は「栽培したい」
自治体の栽培規制は賛否両論だが、栽培実現のためのルールとしての期待も
自治体の栽培規制について半数(50.5%)が「望ましい」と回答。ただし、遺伝子組み換え作物を「栽培したい」人でも、4割(40.6%)は自治体の栽培規制を「望ましい」と回答しており、何らかの手続きを踏むことで、地域での栽培への理解を得て、栽培を実現させるためのルールとして肯定する傾向もある。
他方、規制反対派は「現在の規制では実質栽培ができない」、「規制するだけでは問題の解決にならない」、「海外との競争のため進歩を遅らせてはならない」などを懸念。


ポイント3
生産者の6割は乾田直播の必要性認め、技術が安定すれば栽培したい
日本の農業にとって「必要」(25.8%)と「どちらかといえば必要」(40.0%)を合わせると、6割以上が必要性を認める。
生産者の59.2%は、条件付も含め「栽培してみたい」。
栽培の条件は、「技術が安定して栽培しやすくなったら」(67.4%)、「生産コストが低減できれば」(40.5%)など、技術の実用性を重視。


ポイント4
「自給率を上げるべき」「有機栽培をふやすべき」「経済の論理を求めるのは間違っている」という農業に対する一般常識に生産者は困惑
「日本は食料自給率が低く、将来は今まで通り海外から食料を輸入できなくなる可能性もあるため、国内の生産を増やすべきだ」に対し、半数以上(51.1%)が違和感。
「これからの農業は、農薬や化学肥料を使わず、安全で生態系に優しい有機栽培を増やすべきだ」に対し、70%以上(72.6%)が違和感。
「農業は、豊かな自然や地域社会を守る役目も果たしているのだから効率性や生産性を求めるのは間違っている」に対して、80%近く(77.8%)が違和感。
違和感を持つ理由は、手段だけにとらわれず広い視点で目的の達成を目指す、といった合理的思考に根ざすものが多い。
例えば、「食料自給率ありきでなく個々の経営者が努力し国内農産物の需要増加を目指すべき」(非常にそう思う52.5%)、「有機農業でなくても安全性や環境に配慮してきちんと管理することが、生態系にも経営にも望ましい」(非常にそう思う70.7%)、「農業経営の継続を前提にした効率性や生産性への努力は、環境や地域社会を守ることにつながる」(非常にそう思う51.5%)。

以上

■調査方法
 調査対象:全国の農業経営者2,004名(うち、年間販売額1000万円以上1,089人)
 調査方法:郵送・FAX・メールによるアンケート調査及び一部グループインタビュー調査
 調査期間:2006年3月及び7月

■詳細資料
・月刊「農業経営者」9月号 掲載
農業技術通信社ホームページ にて 9月下旬 報告書掲載

お問い合わせ先
株式会社農業技術通信社 松田・昆
電話 03−3360−2697
FAX 03−3360−2698
メール  press@farm-biz.co.jp